はらぺこいわむし

いろんな感想とちょっとした感情

ストリップ劇場でしていた恋

私が初めてストリップ劇場に行ったのは2016年6月29日、岐阜にあるまさご座という劇場でした。仕事終わりに一人で行きました。

「どうしてストリップを見に行こうと思ったの」と聞かれることがあって、その度に「SNSのレポート漫画を読んだから」と答えていたけれどそれはストリップがどんなものかを知るきっかけで、行こうと思った理由は他のところにありました。当時自分は結婚するかしないかという状況でした。というのもその半年程前にお見合いをしていて、その半年間お互いが休みの日は二人で過ごしていたにも関わらずどちらも結婚という言葉を出さなかったために双方の親が焦れだしたというわけ。好きでも嫌いでもなくて一緒にいて楽しいわけでも煩わしいわけでもない、きっとお互いがそう感じていました。それでも私はその人と結婚するつもりでいた。感情無しで。相手にとって失礼だとかそんな考えも持てないくらい自分の頭を占めていた言葉があって、それはお見合いするより何年もうんと前に好きで好きで好きでたまらなかった恋人に言われた「今度は男の人に幸せにしてもらって」でした。私の幸せを願ってくれた言葉はその子を忘れることができない自分の中で「男の人を好きにならないと」「結婚することが幸せなんだからそうしないと」と濁って積もって無くならなかった。とうの昔に終わってしまった恋人の言いつけを守るために、恋をして結婚して幸せになろうとしていました。こんなやつ誰が幸せにしてやろうなんて思うかよ。

女の人じゃないと好きになれないわけではないけれど、結婚が決まったらもう女の人に恋をすることは完全にできなくなるんだな、好きだと思う人に恋をしたらいけないんだなと思ったら最後に思いっきり女の人に恋をしたくなりました。本物の恋じゃなくて1日で終わる疑似恋愛、のめり込まずに完結することができるインスタントな即席恋愛。それにストリップ劇場を選んだだけでした。メイド喫茶でもキャバクラでもアイドルでも良いじゃんと言われてしまえばそれで終わりだけど、明朗会計、場所、日時、そういうものを調べてみても一番行きやすかったのがストリップ劇場だった。あと裸が見られる、私は頭がよくないから女の人の裸を見ればすぐに好きになれる自信があったんですよね全身が童貞ってかんじだ。「どうしてストリップを見に行こうと思ったの?」の答えは「結婚する前に女の人に恋をしたかったから」です。

劇場に着いた頃には13時を過ぎていて二人目の踊り子さんのステージの真っ只中、思っていたより大きかった音響に驚きながら階段を上ると自分が初めて見る「踊り子」という職業の女の子がいました。大きな会場の声優のコンサートも行った、小さなライブハウスでバンドのライブも見た、テレビでも沢山の可愛い女の子を見てきた。それでもキラキラして目が離せなくて動けなくなるなんてことは初めてだった。座席を探して座ることすら忘れた。

私の目に眩しくて仕方なかった女の子は「左野しおん」という名前の踊り子さんでした。

髪さらさらだな、目おっきいな、肌やわらかそうだな、かわいいな。

そんな感想しか抱けないならストリップじゃなくてもよかったと言われてしまいそうだけれど、頭のてっぺんからつま先まできらきら光る女の子が即席の恋に落としてくれたのがストリップだったのだから仕方ない。ダンスが上手いかどうかもわからないし、ポーズのキレだって勿論わからないけど私にはただ眩しくて仕方がなかった。

演目の途中からの入場で恐らく10分も見ていなかったような気がします。ステージの後はデジタル写真の撮影コーナー。劇場に入る前の自分は全く撮る気がなかったのに、ステージ後は撮るか撮らないかですごく悩んで、最後の一人が撮り終わって彼女がはけようとした時に思わず立ち上がりました。撮る!遅い!!もたつく私を見かねてか隣に座っていたお兄さんが「左野さーん!」と呼び止めてくれました、ありがとうございました。ステージと客席よりも近い写真撮影で息の仕方をググりたくなる、こんなきらきらした子とオラうまく会話できねぇぞ!の気持ち。なんとか2ショットを撮ってもらいました。

オープンショーで彼女が私の座っているところまで来てくれてこそっと「女の子がすきなの?」と聞いてくれて、あんなにも意固地に、男の人を好きになろうとしていたくせに、私は秒で首を縦に振った。「私も!」と笑いかけてくれる彼女に救われた気がしました。違うことはわかっているんです、好きの種類。でもいいの、それでもたったそれだけのやりとりでも、他の人にとっては中身のない会話でも、私はそれで誰を好きになっても良いんだと思えたんです。

結局その日は次の回も彼女の写真を撮っていて、初めてのストリップ劇場で一人の踊り子さんの写真を3枚撮っていました。「のめり込まずにできるインスタントな恋」とか言ってた女どこのどいつだよ。

その3日だか4日後、結婚の話は無かったことになりました。相手に気持ちが無いこともわかっていたし、自分で呪いにしてしまっていた「男の人に幸せにしてもらって」という言葉もどこか行方知れずになっていて、別段ダメージを感じることはありませんでした。話を持ってきてくれた祖父母と母には上手くまとまらず悪いことをしてしまったけれど。

彼女のステージを見て、写真を撮って、ほんの少し言葉を交わして、その間私は幸せを感じて、すごく頭が軽くなったんです。絶対に叶わないことが決まっているステージと客席との距離が縮まらない恋は、悩む必要が無いという点も私にとっては良いものだったのかもしれません。

2016年11月、二度目に会った彼女は私の名前を覚えていてくれました。ただでさえ力強くなったダンスに泣きそうになっていたのに、たった1日しかも5ヶ月も前に見に行っただけの自分を覚えていてもらえたことが嬉しくて泣きました。私が好きな左野しおんさんの演目に「スイートソロウ」という演目があって、その演目はこの11月に見た演目でした。優しくて少し寂しくて寄り添ってくれる気がして、演目の中の女の子に恋をしてステージの最中に泣いていました。胸がいっぱいになる感覚は恋でしかありませんでした。この週から私は彼女がすけべえっち写真を撮られるのも他のお客さんと仲睦まじげな2ショット撮るのもすげえ嫌でしたガチ恋勢じゃねえかこえーわ。全く穏やかじゃないし滑稽甚だしいけれど、こんな嫉妬みたいな気持ちも久しぶりで、恋愛はもうどうでもいいと思っていた自分に沢山の気持ちが戻ってきたのが面白かったです。1回15分くらいの恋で自分の心に色んな表情が戻ってくるってすごくないですか?すごくすごい。6月はただの一目惚れだったのかもしれない、11月には彼女が演じる女の子が恋しくてたまらなかった。

その後はお金を貯めながらぽつぽつと彼女のステージを見に行きました。どうしても間が開いてしまって沢山会いに行けるわけでもなく、お金だって沢山使えるわけじゃないのに、そんな客の自分でもいつも覚えていてくれました。

新しい演目を見る度に、その女の子に恋をして泣いて笑って。ストリップ劇場に通うようになってから本当によく心が動くようになったと思います。劇場の外にいても「好きだと思った人を好きでいていい」という気持ちでいられるようになりました。

ストリップ劇場でしていた恋は去年の12月に終わりました。大好きな彼女の引退は私の恋の終わりです。ずっとファンでいることはできるけど、もうステージ上の元気でやさしくてさみしいあの女の子に恋をすることはできないから。

彼女がもう演じることがなくなった女の子の衣装を私に手渡してくれたとき、年甲斐も無く大泣きした。ふわふわ柔らかそうなスカートは意外と重たかった。白いドレスのスカートは「ワイルドライフ」のもので、その演目はドレスを脱いでから幸せになるお話でした。ドレスを脱いで踊り子を脱いでからも、もっと幸せになってくれることを願っています。ステージで踊って沢山の人を笑顔にしてくれたしおんちゃんだから、きっと自分の幸せの見つけ方だって知ってる、絶対に幸せでいてくれる。しおんちゃんがステージから伝えてくれたものがあるから、私だって自分の気持ちできっと幸せになれる。

自分の恋の終わりが「左野しおん」だった女の子の新しい幸せの始まり。寂しいと嬉しいの混ぜご飯みたいだけど、混ぜご飯は基本的に美味しいものだし食べてもきっと悲しくない。

2年6ヶ月ステージを見ているだけでした、それでも確かに恋でした。